会長メッセージ

会長挨拶

会長 山内 和人

 この度、藤嶋前会長の後を引き継ぎ、会長を仰せつかりました。精密工学会は創立90周年を迎え、諸先輩方が築かれた伝統に深く感謝し、その責任を重く受け止めております。本学会が発足当初から提唱してきた産学の連携と科学に基づくモノづくりは、日本の製品が国際市場で競争力を高め、科学技術立国日本の形成に大きく貢献してきました。しかし、近年、学会を取り巻く環境は厳しく、ここ20年は会員数の減少が続き、近年は財政難も課題となっています。製造技術の高度化が成熟期を迎え、技術情報へのアクセス手段が多様化するなど、学会の役割が相対的に低下したとの認識が学界と産業界の双方に定着しつつあることが要因ですが、これはイノベーション創出の機会を自ら失うことに繋がると思います。今こそ学会は、研究者や技術者が集っていつもとは違う話題に花を咲かせ、異なるロジックが融合し、思いも掛けないイノベーションの種が見つかる場にならなければなりません。経済は失われた30年を取り戻しつつあります。学会も輝き続けようではありませんか。

 精密工学会の歴史を振り返ると、黎明期から最盛期に向けて、様々な技術分野との連携と融合に取り組み、対象とするモノづくりの範囲を広げ、同時に基礎科学や情報科学の知見を取り入れた新しいモノづくりの創出に貪欲でした。世界で初めて「ナノテクノロジー」という言葉を使用し、G. BinnigとH. Rohrerによる走査型トンネル顕微鏡の発明とほぼ同時にさまざまな走査型プローブ顕微鏡を独自に展開しました。また、K. E. Petersenの歴史的な論文「Silicon as a Mechanical Material」の発表以降、すぐにMEMSを主たる分野として取り入れました。さらに、R. CarとM. Parrinelloの論文「Unified Approach for Molecular Dynamics and Density-Functional Theory」の発表の後、早々に第一原理分子動力学シミュレーションを活用した原子論的なモノづくりを拓いた実績があります。情報科学を利用したモノづくりでは、精密工学会が担うべき社会的価値の中で、「物理的な形をもたないモノ」つくりも開拓しました。多くのイノベーションが、人と人、分野と分野が出会い、生み出されました。

 精密工学会が100周年に向けて次の10年に踏み出すにあたり、異分野との出会いと連携、基礎科学を取り入れた次世代のモノづくりの創出を改めてキーワードに据えます。人と人、科学と技術、異なる分野が出会い、アイデアが生まれ、楽しめる学会となるよう、まずは春と秋の大会を異分野、基礎科学との遭遇の機会にしたいと思います。精密工学には守るべき固定された体系はありません。研究者の皆様には、たとえ遥か遠くであろうとイノベーションを見据え、研究テーマの中に、異分野を取り入れ新分野を拓く冒険型テーマを一つ加えていただき、精密工学を楽しんでいただきたいと思います。このことこそが、個性豊かな人々が集う魅力的な学会として第2の最盛期につながると信じています。

精密工学会 会長 山内 和人
2024年4月

歴代会長紹介(歴代会長、副会長の氏名・所属等)

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